用賀からの帰りの電車の中。真向かいからときおり舌を鳴らす音が聞こえる。僕はその音に苛立ち、顔を上げる。するとそこに、古ぼけた男がいた。てっきり老人が歯をせせる音かと思ったが、それは老人ではなく、古ぼけた男だった。これほど古ぼけた男というのも滅多に見かけない。土を塗りたくったような、日焼けとも酒焼けともつかない顔。それはまさに土の色といった方がふさわしい。典型的なブルーカラーといった服装。薄汚れた靴。まるで全体がメキシコの裏通りの土壁のようである。渋谷でドアが開き、降りる。間近で見る男は、驚いたことに靴以外は新品だった。薄汚れたように見えるくすんだジャケットも新品。おまけにその土色の肌も垢が溜まっているわけではなく、新品。なのに、どうしてこの男はこんなにも薄汚れて、古ぼけて見えるのだろう?
いつぞやの六本木WAVEのように、東急文化会館は跡形もなかった。ぽっかりとコの字型に、ちょうど1ブロック分空いたスペース。空虚。廃墟。なにかの跡。都市という名の残骸。その一角は、僕にはやけにニューヨークっぽく見えた。たぶんそれは、距離だと思う。廃墟を取り囲むビルの距離。
いつものジャズ喫茶で夕食。ジャズ喫茶とか、ロック喫茶というのは、なにかしら発見がある。例えば、今日ならEsbjorn Svensson Trio。ほどよく洗練されて、ほどよくクールで、ほどよくホットで、ほどよくファンキー。いつも頼むたらこのスパゲッティが今日は味が落ちている。茹で方もいまいちだし、たらこも少ない。何故なら、「なんでも鑑定団」の鑑定士そっくりのマスターはカウンターで話し込んでおり、バイトの兄ちゃんが作ったからだ。そのマスターに熱弁を振るっている初老の紳士の声が耳に入る。彼が熱く語っているのは、例の輸入盤規制の問題である。話はコピーコントロールCDにまで及ぶ。彼の話の要点をまとめると、要するに日本のレコード会社は糞であり、日本の音楽業界は終わっている、ということである。全面的に賛成。日本の音楽業界は死んだ。少なくとも、トキと同じ運命を辿っている。日本のレコード会社のお偉方連中は鳥ほどの知能も持ち合わせていない。才能のあるミュージシャンは海外からリリースすればよい。日本でしか通用しない連中は・・・阿呆が買うから。おっと、これらは僕の意見だ。白熱した議論は次にかかったボビー・マクファーリンの声にかき消されてしまった。
ところで、昨日あたりから山のようにウィルス・メールが届いている。それも大半がシマンテックからである。それをシマンテックのソフトが削除しているのだから情けない。
まあとにかく、日本の音楽は墓に片足を突っ込んだ。レミングの行進である。合掌。
ちなみにCCCD(コピーコントロールCD)は音が悪い。PC、Macで再生できない。ドライブが破損する恐れがある(前述の熱弁氏談)。意地でも買わないようにしましょう。
Posted by Sukeza at May 14, 2004 12:09 AM | TrackBack