May 28, 2007

僕はいつものように、ドトールで仕事帰りの彼女を待っていた。僕は窓際の一番奥のテーブルに座っていた。ベンチシートの一番端、つまり僕のすぐ隣には、スポーツ新聞を持った、赤ら顔の、いかにも疲れ切った労務者風のおっさんが座っていた。何本目かの煙草を吸っているときに、僕は異変に気づいた。隣のおっさんが突然、両膝を床についてひざまづいたのである。ぎょっとした。しかし、おっさんは何事もなかったかのようにまたベンチシートに腰かけ、少し押し出していたテーブルを元に戻した。それからである。何か妙なお経のようなものが耳に入ってきた。歌だ。例のおっさんが、声を殺して、何か口ずさんでいる。どこかで聞いたメロディである。同じフレーズを繰り返している。声は次第に大きくなり、僕にも何の歌か分かるようになった。
「はーるーこーおーろーおーのー、はーなーのーえーんー、めーぐーるーさーかーずーきー、かーげーさーしてー」
タイトルは忘れちゃったが、延々とこのAメロを繰り返している。不気味なことこの上ない。声はだんだんと大きくなる。恍惚としているのか。それとも酔っ払っているのだろうか。一種のトランス状態に見える。と、歌いながら突然テーブルを前に押しやり、またもシートからずり落ちるようにして、おっさんは両膝を床についた。かと思うとすぐに席に戻り、テーブルを戻した。いったい何? 何なのだ、これは? 宗教? イスラム教っぽいがそうではなさそうだし。歌は延々と続く。同じフレーズを繰り返す。そのうち、歌が止んだと思うと、おもむろにおっさんは立ち上がって、スポーツ新聞と飲み終わったアイスコーヒーと灰皿を持って、何事もなかったように去って行った。いったい、何者だったのだろう?

Posted by Sukeza at May 28, 2007 10:28 PM
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