July 08, 2006

わたしたちが孤児だったころ」の不思議な読後感をまた味わいたくて、カズオ・イシグロの「日の名残り」を読んだ。ブッカー賞を受賞し、映画化もされた彼の代表作と目されるこの作品は、やはり味わい深い読後感をもたらしてくれた。物語自体は執事という、日本人の我々にはなかなか馴染みの薄い職業の人物の独白によって語られる。そして、例によって過去の追想を積み上げるという、ある意味退屈に陥りがちな構造を持っている。実際、読んでいるあいだはかったるいなあ、という印象を受ける。それは執事という職業特有の慇懃すぎる言い回しや思考も影響している。しかし、読み終わって巧いなあと思うのは、こうした人物を描き、語らせることによって、僕らは最後に甘酸っぱい悔恨のようなもの、人生の終わりに差し掛かった人間が味わうであろうある種の感慨を共感することができるのだった。人生とは、過去とはなんだろう、というような、決して答えを得ることができない問いを発したくなるのだった。

Posted by Sukeza at July 8, 2006 09:05 AM
Comments

「日の名残り」良いですね。僕も大好きです。
ほんとにsukezaさんのおっしゃるとおりの本だと思います。

・・・リアルでは「執事」って一人しか知りません。大学の同級生の女の子の家にいました。いつも手袋してた。

Posted by: tak at July 8, 2006 11:22 PM

執事のいる家……いったいどんな家なのでしょう?
僕は執事は一人も知りません。なにせ田舎で育ったもので。
今でもいるんでしょうね、執事。どこかに。いったいどういう人生なんだろうな、執事の人生って。ストイックの極致、みたいな人生なのでしょうか。いずれにしろ、僕に勤まらないことは確かです。

Posted by: Sukeza at July 8, 2006 11:56 PM
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