不夜城

7月27日、土曜日。

23時54分、外は雨。

馳星周「不夜城」を読んだのはいつなのか調べると、1996年だからもう23年も前だ。以来、不思議なことに馳の作品を読んだことがなく、今「鎮魂歌 不夜城Ⅱ」を読んでいるのが23年ぶりの二度目。一体なんでこんなに間隔が空いたのかと考えるに、処女作「不夜城」の後味があまりにも悪かったからかもしれない。言い方を変えればそれだけラストが衝撃だったとも言えるのだが、その後映画化されたものにがっかりしたことも一因かもしれない。もうひとつ挙げると中国人の名前(読み方)を覚えるのがめんどくさかった。

しかし考えてみれば後味の悪さとかでいえば馳も愛読しているというエルロイの方が凄まじく、例えばLA四部作の「ビッグ・ノーウェア」ではそれまで主人公と思っていた人物が途中で頭を撃ち抜いて自殺するのには度肝を抜かれた。そのエルロイはほとんどの作品を読んでいるのだから、さして説得力のある理由とも思えない。そういえば同じ日本のハードボイルド作家である花村萬月も初期の数作を読んでからしばらく読まなくなった。今なんとなく思えば、馳星周の場合は一発屋の匂いがしたからかもしれない。

「不夜城」で思い出すのは、学生時代に歌舞伎町のコマ劇場前の老舗キャバレーのハコバンでギターを弾きそうになったことだ。ハコバンとはキャバレーなんかの専属バンドのこと。学内のアルバイト募集的な貼り紙を見て、その手の水商売関係専門と思われるコーディネーターに店に連れていかれてバンマスのベースのおっさんに紹介された。そのキャバレーはコマ劇場の真ん前、その後リキッドルームというライブハウスになった角のビルの上にあった。ちなみにリキッドルームは現在は恵比寿に移転している。かなり大きなキャバレーで、ビッグバンドも入っていた。店に連れていかれたのは夜だが、薄暗い舞台裏の廊下でビッグバンドのギタリストと思われる若者がうずくまってギターの練習をしていたのを覚えている。その姿を見て、ここで毎晩酔客相手に弾いたらああいう風になっちゃうのかなと思った。結局それで辞退したのだが、以前もこの日記に書いたことがあるがもしあのときあの店で毎晩弾いていたら自分の人生はどうなっていたのだろうかと思い出すたびにふと思うのだ。何しろ歌舞伎町のど真ん中、まだ今のようにガイジンで溢れていなかったころである。同じコマ劇前で通りを挟んだ並びのビルの一階にはテレフォン喫茶というものがあった。テレフォン喫茶といってもその後に流行ったテレクラのようなものではなく、普通の喫茶店なのだが各テーブルに電話機が置いてあった。まだダイヤル式で、電話機はモスグリーン色だった。要は席にいながら電話ができるというそれだけのことである。そのテレフォン喫茶のあるビルにはその後ノーパン喫茶が乱立した。そのころから歌舞伎町はカオスそのものだった。もしあのバイトを引き受けていたら、夜な夜な歌舞伎町で朝まで過ごして始発で帰る、みたいな生活になっただろう。そして、普通に生活していたら僕のような下戸では絶対知り合えないような人たちと知り合えたのだろう。それは今思うと、なんだか素敵なことのように思えるのだ。ネオンのように怪しく輝く世界。

しかし考えてみれば、パチプロ時代、渋谷を根城にしていた時期とか、赤坂をネグラにしていた時期とか、相当怪しい世界に僕はいた。どちらでも変に顔が売れてしまい、赤坂の店で打っていると見知らぬ若者に声をかけられたりもした。とはいうものの、歌舞伎町に比べればまったくどうってことはない。後年、怪しげなブラック企業の面接を受けに歌舞伎町を久しぶりに訪れたのだが、昼間から喫茶店にはやくざが大挙してたむろしているし、風林会館辺りとか、裏通りのヤバさ加減は半端なかった。

そういうことを思い出すと、今現在は歌舞伎町と対極にある世界に僕はいる。このちんけな田舎町では、夜出歩くどころか昼間から歩いている人間はほとんどいない。夜に散歩しようものならまるで不審者だ。以前から不思議に思っているのだが、こういう田舎町の人々は徹マンとかしないのだろうか。シャッター通りと化した町の中心部の角に、風化して剥げかかった雀荘の看板はあるが、果たして今でも存在しているのかどうか怪しい。隣町のモスバーガーは深夜2時まで営業しているのだが、一体全体、深夜0時過ぎにどんな客がいるのか、一度見に行きたい誘惑に駆られる。

試しに「山形 風俗」でググってみると、驚いたことに物凄い数のデリヘルが出てくる。で、それぞれの店にはいわゆるところの娼婦が何人も所属しているのだ。そういう店のひとつをクリックすると、今出勤しているデリヘル嬢が表示され、人によって深夜2時までとか3時までとか出ている。詰まるところ、どこにいても闇は深い。僕らは世界の半分しか見れていない。

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