終わりと始まり

7月19日、金曜日→7月20日、土曜日。

時計が0時を回り、僕は60歳になった。還暦。これからはカテゴリーとしては老人になる。何かが終わったのだ。もうちょっと感傷的になるかと思っていたが、意外とそうでもない。たぶんそれはまだ自分が60歳であるという自覚がないだけだろう。考えてみれば40歳になったときとか、50歳になったときにも何かが終わったように思ったものだ。例えば青春とかそういうものが。で、自分はおっさんになったのだと思ったものだが、今思うと40歳とか50歳なんて全然どうってことなかった。別に何も終わらなかったし、突然老け込むわけでもなかった。むしろ自分はまだ若いと思うことすらできた。それに比べると60歳というのはインパクトが違う。少なくとも印象的に失うものは圧倒的に多い気がする。ただ人生が終わったわけではない。実際に、60歳になってみてさっき風呂に入って思ったのは、俺は60歳になってもまだ生きている、ということだった。世界や人生はそう簡単には終わらない。たぶん何かが終わったということは何かが始まるんだろう。余生とかそういうものが。しかし考えてみれば人生というもの自体が常に余生であるともいえる。7年前にガンになった時点でもしかしたら自分は死んでいたかもしれないので、その時点から既に余生は始まっていたのかもしれないし、人生そのものが壮大なモラトリアム、あるいはおまけのようなものなのかもしれない。

何か物凄い諦念みたいなものが押し寄せてくるかと思ったが、現時点ではまだそうではない。でも明日(つまり今日だ)朝起きてみると襲ってくるのかもしれないし、それとも一か月後とか三か月後とかどこかのタイミングで来るのかもしれない。いずれにせよこの時点で終わった感があまりないのは、今の自分には失うものがあまりにも少ないからだと思う。そもそも持ち合わせていないのだから。

なんにせよ、老いというものは学生のときにキーボードのヤマザキが急性アルコール中毒で一夜にして白髪になったみたいにある日突然やってくるわけではない。そんなものは自分でも気がつかないうちにとっくにやってきていて、人はシームレスに年を取るのである。いつの間にか耳鳴りがして老眼になっている。という具合に。

ただこれだけは言える。これからは楽しみが減る。何故なら期待値が減るから。日々ちょっとずつ何かを諦めなければならないのだろう。

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今朝は9時45分起床で、今週初めて9時半よりも遅く起きてしまった。しかしながらかろうじてここまで全部9時台には起きている。今日の夢には、自分の夢でしばしば出てくる駅が出てきた。用賀に電車で帰ろうとするのだが、その駅には用賀に向かう路線が2つあって、何故かプラットホームが違うのである。それで、どちらの電車に乗ればいいのかいつも迷う。物凄く混んでいたり間に合わなかったりで必ず乗り損ね、違うホームの電車に乗ろうと移動するのだがいつまで経っても電車に乗れなくて駅の中を右往左往するという夢である。現実には用賀に行くのは田園都市線しかない。いずれにせよ、この違うホームに同じ方向に行く電車があるという駅は自分の夢の中にしょっちゅう出てくる。いわゆる迷う夢として。ここでふと思ったのは、何度も同じ駅が夢に出てくるということは、そのたびに同じ世界を覗いているのではないかということだ。つまり、ある日の夢と別の日の夢はどこかで繋がっているのではないか、ということである。いわゆるパラレルワールドみたいに。

かつて、人生はあみだくじのようなものだ、と書いたことがある。そのときは人間は生まれたときに既にあみだくじを引いてしまっていて、結果辿り着く行先も決まっているという論点だった。つまり人生あみだくじ一回論。しかし人生が「常に」あみだくじであると仮定する。すると、我々は常にくじの選択をしているわけである。印象論として、震災の日から世界が一変したと思った。それはつまり、2011年3月11日から違う世界(パラレルワールド)に移行した、という感覚。同じように、例えば会社を辞めるという決心をした日から以降の人生が変わるという具合に、僕らは無数にあるパラレルワールドの間を右往左往しているとも考えられる。それはなんか、夢と現実の間を行ったり来たりするのと似ている。目が覚める前と目が覚めた後……。

それはともかく、今日はようやっと髪を切った。午後の早い時間に1000円カットに行ってみたら、まったく待たずに切ってもらえた。何度来ても誰かが待っているときもあれば、こういうときもある。

60歳になってこれから何かが始まるのだとしたら、それがいいことである可能性が少なくとも50%ぐらいはあるのだ。ま、何も始まらない可能性もあるけどね。

いまのところ、自分が老人になったという自覚はない。それでいいのだろうか。まっいいか。

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