someday,sometime

「お台場、しかも夜」

...

この寒いのに、またまたお台場まで行ってきた。かつてプロデュースしていたアーティストのライブを見に行くためである。それにしても、夜のお台場というのはホントに寒い。とにかく風が強くて、一体全体、この季節にこんなところまで皆何しに来るのだろう、という感じである。まあそれは案の定ほとんどがデートであると後に分かるのだが。

というわけでフジテレビを見上げながら、向かいのなんとかというショッピングセンターみたいな建物に入った。外を歩いている人はあまり見当たらないのに、中に入ると結構な人出である。うろうろとさまよいながらようやく会場のレストランを見つける。受け付けにチケットを預けてあるというので、てっきり招待だと思っていたら、しっかり料金を取られた。

彼女と会うのは丸三年振りだ。彼女の父親は誰でも名前を知っている大物歌手で、飛行機事故で亡くなった。母親は女優である。これは考えようによっては可哀相なことでもあるが、彼女を人に説明するときは、いつも父親の名前を出して、彼の娘、と言わなければ分からない。彼女はこれまでもずっとそう呼ばれていただろうし、もしかしたらこれから先もずっとそう呼ばれるのかもしれない。彼女は結局デビューできなかった。僕自身は途中で降ろされてしまったのだが、半分は僕の責任ではないかと思っている。なんせ、レコード会社と契約させたのは僕なのだから。

まいったことに会場は禁煙だった。レストランなのに。途中、MCで「わたしはいいスタッフに恵まれていたのに、デビューできませんでした」というせりふがあって、恐らくそれは僕が来ているということを意識してのことなのだろうが、僕はそれを聞いて闇雲に煙草が吸いたくなった。MCでもうひとつ驚いたのは、この三年のうちで、自活するためにOLを一年やった、というエピソードだった。へえ、と思った。彼女を取り巻く世界からはちょっと考えられないことだ。そう言われてみれば、案内のはがきに手書きで書いてあった住所が自宅じゃなかったことを思い出す。彼女は彼女なりに、いろいろあったんだな、と思う。

曲が進むにつれて、ああ、彼女はこんな歌を歌いたかったんだな、と思った。しかし考えてみればそれは、僕が彼女のデモテープを聴いて最初に抱いた予想と同じものだった。僕はそれでは当たり前すぎると思って、違う彼女というものを引き出そうと、まだブレイクする寸前だったR&Bみたいな曲とかを歌わせていた。彼女の世界は、まったくもって上品で、素直で、ボランティアにも参加しているという彼女の人柄や、育ちそのままだ。僕はそれに半ば退屈を覚える。所詮僕は彼女ほど上品でもなく、素直でもなく、育ちがいいわけでもないのだろう。結局僕がもっとも心を動かされたのは、彼女の父親の大ヒット曲だった。誰もが予想し、期待する曲。少々残念だ。それを超えるところに、父親とは違う自分というものを作り出すべきだ、と僕はずっと思ってきた。今だったら僕は彼女になにを歌わせるだろう、とぼんやりと考えた。

アンコールが終わって、僕はあいさつをすることなしに会場を後にした。なぜなら、客の大半は彼女の知り合いであるだろうし、僕はその一人に過ぎないからだ。電車の時間まで大分あったので、ほとんどシャッターが降りている中で営業しているカフェに入った。レインボーブリッジの輝く夜景の見える席に案内されると、僕以外はすべて若いカップルだった。僕はボロネーズとエスプレッソを頼みながらげっそりした。エスプレッソをすすりながら煙草を肺の奥まで深く吸いこんだ。周りでいちゃいちゃするカップルと夜景をぼうっと見ながら、オレはいったいここでなにをしているんだろう、と思った。今年もあと二日で終わるというのに。

written on 30th, dec, 2002

back