Esbjörn Svensson Trio (e.s.t.)

Jazz

エスビョルン・スヴェンソン・トリオまたはe.s.t.(E.S.T.)はスウェーデンのピアノトリオ。ピアノのエスビョルン・スヴェンソン(Esbjörn Svensson)、ベースのダン・ベルグルンド(Dan Berglund)、ドラムのアグヌス・オストロム(Magnus Öström)からなる。ピアノのエスビョルン・スヴェンソンは2008年に事故で44歳にして既に亡くなっている。

彼らの演奏を初めて聴いたのはもう随分前だ。まだ世界が二十世紀だったころ、当時行きつけの渋谷のジャズ喫茶、Mary Janeで。かかっていたのは彼らの3枚目のアルバム、"Winter In Venice"だった。とにかく新鮮だった。特に極端に変わったことをやっているわけではない。明らかにピアノトリオジャズなんだけど、なんか違う。なんだろう。なんていうか、どこかポップなのだ。単純に聴きやすいとか、フュージョン(最近で言うスムーズ・ジャズ)っぽいとか、そういう意味ではなくて。アコースティックなピアノトリオなんだけれど、どこかに表には出てこないポップさが潜んでいる。それと、ビル・エヴァンスなんかとはまた違った、洗練されたセンチメンタリズム。僕はとても気になって、見慣れない綴りの名前をなんとか覚えようと、ジャケットを見に行くために何度も席を立った。

考えてみれば、それが僕が北欧のジャズ、ヨーロッパのジャズを再認識するきっかけになった。大体において、仕事でスタジオに入りっ放しの10年ぐらいは、ジャズを聴くことそのものからも遠ざかっていた。それまでまったくヨーロッパのジャズを聴かなかったわけではもちろんない。それまでにも、例えばベースのニールス・ペデルセンとギターのフィリップ・カテリーンの組み合わせみたいなお気に入りのアーティストはいた(学生時代の話だが)。しかし総じて、例えばギターのジョン・マクラフリンとか、ベースのミロスラフ・ヴィトウスみたいに、ヨーロッパのジャズはどこか難解なイメージがあった。アメリカのジャズと比べると、小難しくて、グルーヴが感じられない印象だった。それが、彼らエスビョルン・スヴェンソン・トリオ(e.s.t.)の演奏を聴いて一変した。

彼らはTシャツにスキンヘッドで、まるで見た目はリュック・ベッソンの映画に出てくるパンク野郎みたいである。アコースティックピアノの上にはいつもエフェクターが置いてあるし、アルコ・ベース(弦を弓で弾く)にディストーションをかけたり、ドラムにディレイをかけたり、ライブの演奏スタイルはまるでロック・ミュージシャンのようだ。だが、演奏するのは明らかにジャズ。基本的にはアコースティックで美しく、ときにはラジカルでアグレッシブになるが、それは今息づいているジャズそのものだ。彼らを聴いて以降、僕はむしろヨーロッパの若手のジャズを好んで聴くようになった。


■ むしろ従来のジャズのスタイルで生きる感性

エスビョルンの早逝もあって、彼らの残したアルバムはそう多くない。それほど長くない活動期において、後期になるに連れて実験的な要素も増え、矛盾した表現だが、アグレッシブな方法論を使うほど内省的な傾向を強めていった印象がある。そこに一貫してあるのは北欧的なセンチメンタリズムだが、それが次第に陰鬱な色彩を帯びていった印象を個人的には受ける。なので、個人的にはより従来のジャズ、メインストリームのジャズにリンクする部分の多かった初期のアルバムの方が好きだ。なので、彼らを初めて聴く人には初期の3枚のアルバムをすすめたい。

"When Everyone Has Gone" (1993)

そんなわけで僕自身、最近一番聴いている彼らのアルバムはというと、気がつくとデビューアルバム"When Everyone Has Gone"なのだった。上記は1曲目のタイトル曲だが、既にその後の方向性の萌芽が見えている。隠し味的にうっすらとときおりシンセのパッドが入っているのも効果的。2曲目にハードバップ・スタイルの「Fingertrip」が来るのもいい。こういった、オーソドックスな4ビートジャズがあることで、アルバム全体のバランスがいい。従来のジャズのスタイル、フォーマットの中でやることによって、かえって彼らの演奏が新鮮に聴こえる。

"When Everyone Has Gone"  Esbjörn Svensson Trio
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"Esbjörn Svensson Trio Plays Monk" (1996)

彼らの2枚目はすべてセロニアス・モンクの曲を演奏したアルバム。こういう、ある意味演奏し尽されたスタンダード・ナンバーを演奏することによって、彼らの感性が際立つ。ストリングスのアレンジも新鮮。

"Esbjörn Svensson Trio Plays Monk"  Esbjörn Svensson Trio
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"Winter In Venice" (1997)

前述のように、僕が初めて彼らの演奏を聴いて感銘を受けたアルバム。この辺りまで彼らの音楽性・方法論は従来のジャズの範疇に留まっていて、その辺りのバランスが個人的にはちょうどいい。

"Winter In Venice"  Esbjörn Svensson Trio
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■ 完成という名の停滞

4枚目のアルバム、"From Gagarin's Point Of View" (1999)からエスビョルンの書く曲の個性は明確になっていき、続く"Good Morning Susie Soho" (2000)からはエレクトリックな手法やエフェクターの多用などを試みている。こうしてアルバムを重ねるごとに、彼らのスタイルは次第に完成されていく。ところが、皮肉なことに、曲ごとに聴く分には数々の名曲があるのだが、方向性が明確になるに連れてどれも同じ味になってしまう。つまりある種のマンネリズムに陥ってしまう。もちろん、個人的な印象ではあるが。これはロックではある意味当たり前のことで、例えばストーンズとか、ハードロックとかメタルのバンドなんかはずうっと同じことをやり続けていて同じ味なわけで。ユニットとしての音楽性が完成されていくに連れて、新鮮味を失っていくのはある意味宿命なのだろうか。皮肉なものである。

そんな中で、後期のアルバムですすめたいのは、エスビョルンの亡くなった年にリリースされた"Leucocyte"。実験的な色が濃いコンセプト・アルバムという印象だが、その分、過度な感傷は抑えられていてクールなアルバム。

"Leucocyte"  Esbjörn Svensson Trio (2008)
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もう1枚、彼らの代表的な楽曲をダイナミックな演奏で聴けるという点で、2枚組のライブアルバム、"Live In Hamburg"。録音状態も素晴らしいし、彼らの音楽性を俯瞰出来るという点でも、これを最初に聴くという手もあるかも知れない。

"Live In Hamburg"  Esbjörn Svensson Trio (2007)
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Sukeza
元音楽プロデューサー。

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私的愛聴盤の紹介。かつてはあらゆるジャンルを聴いていましたが、最近はジャズを聴くことが多いです。ここで紹介するのは、絶対的評価ではなくて、僕の好みです。最近発見したから新しいものとは限りません。