April 12, 2008

えーと、今日(11日)は最初の対決の日、つまり小説や映画で言えば第一のクライマックス・シーンであって、このシリーズの数少ない読者(僕の知る限り2人ぐらいだと思う)にとってはもっとも楽しみにしている局面であろう。しかしながら、残念なことに今日の対決を逐一書くと本一冊分ぐらいになってしまい、きちんと書くことは出来ない。なにしろ2時間15分、僕はほとんど一人で喋りっぱなしだったのだから。

結局昨日の睡眠時間は3時間半。頭が今日の対決のシミュレーションを勝手に始めて止まらなくなり、なかなか寝付けなかった。おまけに朝の7時に目が覚めてしまった。昨夜寝る前にいろいろと作戦を練ったのだが、どうも漫画的であったり荒唐無稽であったりする。眠い目をこすりながら病院のある街まで出かけながら、ふとアイディアがひとつ思いつき、駅に着くなり師長に電話をした。予定では今日は3階にある医療安全管理室で話し合いを行うことになっていたが、それを病室のある6階の面談室に場所を変更して欲しいと告げた。すると、拍子抜けするぐらいにあっさりとOKが出た。まあこの変更はちょっとした作戦を思いついたからなのだが、結果的にはその作戦(2つあった)はどれも使わなかった。まあただ気分的にアウェイをホームにしたような気がちょっとした程度。

放っておくとついいろんなことを想像していろいろ考えてしまいそうなので、いつものように夕方まで業務をして時間を潰すことにした。ところが、いざ業務を始めてみると、これが唖然とするほどツキがない。とにかく一度も当たりを引けないのである。しょうがないので昼過ぎに一旦諦め、ドトールで昼食を摂って病院へ向かった。彼女は点滴の数も減り、吐き気が治まったので今日は昨日に比べれば大分楽になったという。ただ退屈なのでテレビが見たいというので、1階でテレビカードとヘッドフォンを買ってくる。しばらく彼女と話をしていたが、対決は6時からなのでまだ大分時間がある。それで、性懲りもなくまた業務へと向かう。すると、驚いたことに朝よりも輪をかけたぐらいにツイていない。それこそ呆然とするほどツキがない。惨敗。さすがに僕はしょげた。今日はまったくもってツキがない。この後に控える対決を思うとヒジョーに嫌な感じがした。5時ごろに病室に戻ったころには、僕はすっかりしょげかえっていた。もうトーンダウンしまくり。もはや昨夜のシミュレーションも作戦もどこかに行ってしまった。とりあえず腹が減っては戦が出来ず、ということで、1階の売店で菓子パンを1個買ってきて食べた。まだ対決まで1時間近くあるので、僕は彼女に一服してくると告げ、下に降りて病院の前のベンチで煙草を吸い始めた。気持ち的にすっかり落ち込んでいるので、安定剤のレキソタンを1錠飲んだ。この薬は効くとぼうっとして眠くなる薬なのだが、この際そんなことはどうでもよかった。っていうか、基本的に僕はこの薬をもう7年も飲んでいるので基本的に効かない。ヒマなのでI泉さんに電話した。何本か煙草を吸っているうちにI泉さんがもうあと10分後だね、いよいよだね、というので時計を見ると本当にあと10分だった。まだ1時間近くあると思っていたので、いつのまにか時間が過ぎたのに僕はびっくりして、慌てて煙草をもう1本せわしなく吸うと電話を切り、病室へと戻った。このとき、6時7分前だった。さて、いよいよ対決である。

病室でベッド脇の椅子に座って彼女の顔をぼんやり見ていると、師長がやってきて今上がってくるところなので、到着したらお呼びしますと言った。僕はもはやピンとこなかった。なんかどうでもいいや的な気分というか、何も考えられなくなっていた。そんなわけでぼんやりと彼女と話をしていると、予定より7分遅れでお呼びがかかった。僕は本当になんにも考えずに面談室へと向かった。

ところが、部屋に入った途端に僕は日本一嫌な男に変身してしまった。相手は医療安全管理室の課長と年のいった看護婦、それに執刀医と手術に立ち会った若い担当医の4人である。1対4。圧倒的に不利である。もうアウェイもいいとこ。多勢に無勢。ところが、紹介されてみると相手はびっくりするくらいに低姿勢であった。それこそ見るからにおどおどしているといった感じ。これには僕も驚いた。担当者というからには海千山千の人間を想像していたから、まったくの想定外だった。僕は課長からだけ名刺をもらい、全員が着席した。ところが、誰も一言も発しない。担当者である筈の医療安全管理室の課長は見るからにがちがちに緊張してかしこまって足を揃えて座り、膝元に広げたノートにメモをする体勢を取っているだけで、まるでこの場を仕切ろうとする様子がない。しょうがないので僕が最初に切り出した。まず最初に、僕は説明を受けに来たわけではなく、ニゴシエーションをしに来たのであって、その点を勘違いしないで欲しいと宣言した。これは昨夜予め考えてあったことである。これを皮切りに、まず、執刀医に今回の件をどう考えているのかと質問した。すると、彼は起こり得る合併症と考えています、と昨日担当医が言ったのとまったく同じ発言をした。一度発言して勇気が出たのか、それから彼は躍起になってこれがいかに起こり得ることであるのかということを力説した。僕は昨日と同じように、「起こり得る」という蓋然性の話ではすべてを包含してしまうのでまったくなんの根拠にも説明にもならない、と潰した。すると、彼は起こり得ることは予め患者にも説明して納得済みであるし、宣誓書にも書いてあると言う。彼は執拗に合併症という言葉に拘った。僕は食道に傷を負う可能性があるなどということは一言も説明を受けていないし、納得などしていないと反論した。で、宣誓書を持って来いと言うと、若い担当医が宣誓書を持ち出して机の上に広げた。僕はこの中のどこに起こり得る合併症という言葉があるのか、と言った。そんなことは一言も書いてないのである。医者は苦し紛れに、術後に起こり得るケースの最後に、「等」という言葉があるが、それが漠然と示しているのだ、と言った。漠然と。僕は思わず笑いそうになった。仮にそれが包含しているとしても、今回の医者の言ういわゆる「合併症」は術後ではなくて術中に起こったものですよね、と念を押した。その欄には一言も書いてないし、医者にとって困ったことに頼みの綱の「等」という字も見当たらないのである。

とまあ、こんな調子で対決は始まった。僕は昔からそうなのだが、話しながら考えるタイプの人間で、不思議なことに話し始めると次から次へと言葉が出てくるし、いくらでも理屈が思い浮かぶのである。まあこれもアドレナリンの力だとは思うが、そんなわけで日本一嫌な人間へと変身した僕は、次から次へと医者の繰り出す理屈を理屈をもって完膚なきまでにことごとく叩き潰した。しまいには医者はしゅんとなって、言葉を発しなくなった。まあ、僕に昨日彼女が10分起きに吐いて苦しんでいるときにあなたは何をしていましたかと問われて、個人的事情で休んでいましたと答え、へえ、彼女がげえげえ吐いているときにあなたは休んでいたわけだ、とまで言われて何も言えなくなってしまったのだ。たまに医療安全管理室の課長に質問をすると、おろおろしてしどろもどろに答えるばかりで話にもならない。いつのまにか、場は僕の独壇場になっていた。僕はとにかく、医療費、治療費、手術費に対する補償と、精神的苦痛、肉体的苦痛を受けたことに対する慰謝料を約束して欲しいと告げた。すると、医療安全管理室の課長いわく、わかりました、上に告げてしかるべき順番を持って委員会ならびに顧問弁護士に報告しますと言った。これにはさすがに僕も立腹した。つまり、また聞きのまた聞きのまた聞きの人が判断するということですか、それではまるで伝言ゲームではないですか、と言った。すると、課長は苦しそうにそういうことになります、と答えた。それでは僕もその委員会とやらに出席させて欲しいと僕は詰め寄った。いい医者がいい人物とは限らないでしょ、訳の分からん理屈を付けるぼけた年寄りがいないとも限らない、てな具合に。とにかく、この場にいない人間たちが判断すること自体がフェアじゃないし信用できないと言い張った。相手は申し訳ないの一点張り。それに、答えが出るまでに2・3週間はかかると言う。僕はどうしてそんなに時間がかかるのかと詰め寄った。報告だけなら30分もあれば足りるだろうと。すると、年寄りの看護婦が初めて口を開き、そういう先生方は学会や出張やらで忙しく、なかなか時間が取れないのです、と言い訳した。僕は、へえ、そういう医者は残業はしないのですか、と問うた。看護婦は、残業はします、しかしそれほど遅くまではしません、と答えた。僕は、僕自身は今週3時間しか寝ていないのだが、彼らは随分寝る人たちですね、と嫌味を言った。またすみません、という答え。万事がこんな調子で、僕が彼らを徹底的にいじめまくっているような体になっていた。揚げ足を取れるところはすべて揚げ足を取り、理屈には理屈をもって徹底的に潰す。我ながら嫌な男だなあ、などと頭の片隅でぼんやりと考えた。しかし、口の方は一向に止まらない。しかし、2時間を過ぎるころからだんだんと馬鹿らしくなってきた。僕が発言しなければ全員押し黙ったままだし、何より、過失を犯した可能性のある側に決定権があるということがどうしても納得がいかない。フェアじゃない。ここにいる連中は末端の使い走りで、その連中を徹底的に潰したところで何の意味があるのだろうか。そう考えると空しくなってきた。最後にふと思いついて、明日にでも彼女をそちらの負担で個室に移して欲しいと言った。これには何故か好意的に反応して、すぐに実現しそうな感触だった。始まってから2時間15分経ち、もう僕は話す気が失せていた。誰も場を仕切らないし、僕が終わりを告げた。一見僕の独り勝ちだが、結局は2・3週間後の結果を待つことしか出来ない。僕は言いたいことをすべて言ったせいですっきりしたような気もしたが、逆に非常に空しいとも思った。組織の前に個人はあまりにも無力だ。

僕は帰宅してから例によって彼女のマンションに赴き、猫の世話をしながらつい寝てしまった。目が覚めると1時を回っていた。それほど疲れていたのである。安全管理室には逐一報告するようにと命じたが、所詮は後はぼんやりと結果を待つことしか出来ない。もし万が一結果が裏目に出れば、話は最初に逆戻り、一から出直しである。やれやれ。むむ、気がつくともう5時になろうとしているではないか。これから風呂に入るから、結局今日も3時間しか眠れない。もうホントにやれやれだ。僕はマジに疲れ果てている。

続く。と言いたいところだが、まずは第一部終了といったところ。どうでもいいけど、この一週間、まともに寝てもいないし、満足に食事も摂っていない。ふう。まあとりあえず自分にお疲れ様と言いたいところなのだが。

Posted by Sukeza at April 12, 2008 05:03 AM
Comments

お疲れ様です!

難しいと思いますが、どうか、食事と水分と睡眠だけはできるだけお取りになった方が宜しいと思います。エネルギーがあってこそですから。

Posted by: tak at April 12, 2008 05:27 PM

>takさん

ありがとうございます。水分は喉が乾くので取っているのですが、何故か食欲がありません。寝ようと努力はしているつもりなのですが、不思議なことに眠くないし、寝てもすぐに目が覚めてしまうのです。今日こそは6時間寝るぞ、とか思っているのですが。

なにしろ病気のせいで人一倍体力がないですから、消耗が激しいです。エネルギーは、気力はなんとかあるのですが、体力の方はとっくにガス欠という感じであります。

Posted by: Sukeza at April 13, 2008 01:50 AM
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