May 18, 2007

腹が減ったので、夕飯を買いだしに近くのコンビニへと向かった。徒歩一分。ホントに近い。この一分のあいだに、僕はふと嫌な予感を覚えた。ついでに煙草を買いたいところだが、今日はヤナイ君(仮名)がいそうな気がするのである。このヤナイ君(仮名)、恐らく30代前半と見受けられるが、年のせいか最近「責任者」という札をつけてはいるものの、返事だけはよくて要領が悪い、いわゆるトロい人の典型である。毎日のように煙草を買っているのに、一向に覚えられない。恐らく、というか、間違いなく非喫煙者なのであろうが、それでも彼のもの覚えの悪さは酷すぎる。「ラークマイルド」と頼むと、「はいっ、ラークマイルドですね」と威勢のいい返事に自信満々の笑みをたたえながら、煙草の棚の前で毎回うろたえるのである。ラークマイルドといえば、喫煙者のあいだでは、普通ショートサイズのボックスを指す。それしか置いていない自動販売機も多い。いわば、ラークマイルド=ショートサイズのボックスというのは、喫煙者のあいだでは常識である。ヤナイ君(仮名)はそれがどうしても覚えられないらしく、「はいっ、これですね」と例の威勢のいい返事でロングサイズやら、ソフトタイプやらを持ってくる。それでなくても、毎回毎回、煙草の棚の前で手をうろうろさせて迷うのである。なんだこいつは、いつになったら覚えるんだ、と、僕はヤナイ君(仮名)の顔を見ただけでいらいらするようになったのである。温厚な(少しウソ)僕でさえこうなのだから、ヤナイ君(仮名)がいかにトロいかが分かるであろう。

案の定、ヤナイ君(仮名)はカウンターの中にいた。それを見て、僕は少々憂鬱になった。夕飯にチャーシュー丼とサラダ、それに朝食用のパン(超熟)をカウンターの上に出し、煙草を買おうかどうか迷いながら顔を上げた。そのときである。僕は異様にやつれたヤナイ君(仮名)の顔を見た。いったい、彼に何があったのだろうか? そういえば、一昨日は朝から夜まで働いていた。過労だろうか。それともストレスだろうか。僕は一瞬気の毒になり、それから諦めたように「それと、ラークマイルド」と言った。すると、ヤナイ君(仮名)は、「ボックスですよね」と言って、一発でショートサイズのボックスを持ってきた。覚えたじゃないか、ヤナイ君(仮名)! 僕は奇妙な感銘を受けた。人間、やればできるじゃないか。

帰り道、僕はこれまでイライラの対象でしかなかったヤナイ君(仮名)に、ちょっとした共感を抱いている自分に気づいた。あの、すっかりやつれた顔に、彼のこれまでの人生がにじみ出ているようである。要領が悪く、いつも人に馬鹿にされ、不器用で愚かな人生。頑張れヤナイ君(仮名)! 僕はちょっと応援したくなった。

ところで、実名で書いちゃったけど、(仮名)ってつけておいたからいいよね、ヤナイ君(仮名)。

Posted by Sukeza at May 18, 2007 08:34 PM
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