May 05, 2007

車谷長吉(ちょうきつ)の「贋世捨人」を読んだ。車谷は、慶応を卒業してから、会社員勤めを経て、旅館の下足番、料亭の下働きを経て小説家になった男である。つまり、一度世の中を捨てた男である。私小説を常としているが、今回は、子供のころから小説家を本格的に目指すまでが書かれていて、これまでの集大成のような内容になっている。相変わらず、「言うた」というように方言を使った表現は凄みを感じさせる。しかし、小説としては、直木賞を受賞した「赤目四十八瀧心中未遂」の方が遥かに完成度が高いので、初めて車谷を読む人にはこちらをお勧めする。こちらは、焼き鳥屋の下働き時代の話である。「贋世捨人」というタイトルにもあるように、車谷は自分を贋の世捨人だと言っている。それは、結局小説家という夢を捨てきれなかったことを指すのか、それとも完全に世捨人となることができなかったという意味なのかは分からない。ある意味、今の僕は「世捨人」である。旅館の下足番や料亭の下働きよりも下にある、と自分では思う。なにせ、仕事をしていないのであるから。僕は車谷のように、世捨人になろうという強い意思を持ってなったわけではない。ただ、いつのまにかそうなってしまっただけである。だから、自分では世の中を捨てているという自覚はない。ただ、世の中に捨てられてしまったというような不安は常によぎる。もしも、このサイトがなかったら、社会や世の中との接点がなくなってしまう。それこそ本当の世捨人である。僕が本物の世捨人であるのか、偽者の世捨人であるのか、今はまだ分からないが、僕自身は決して世捨人になろうとは思っていない。だから、あがくのである。

Posted by Sukeza at May 5, 2007 05:38 PM
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