everything

「あらゆる確かなこと」

...

未来なんていらない。
僕が求めているのは今だから。
過去なんていらない。
ありとあらゆることが許せるようになるまでは。
たとえ僕のすべてが過去の集積で出来ているとしても。
僕が立ち止まっているのはいつも今だし
すべてが明日から始まると誰かが言っても耳を貸さない。
どこにも確かなことなんてないから。
ムーンウォークをすれば過去に戻れるとしても
僕はムーンウォークが出来ない。
僕が覚えているありとあらゆる記憶が
たとえすべて正しいとしても
そこにはいつも厳然とした距離があるから
僕はいつまで経ってもそこには辿り着けない。
だから僕が溜息を吐くのはいつも今だ。
昨日でも明日でもない。
遠くを見すぎると見失ってしまうから
僕はいつもうつむいて歩く。
何かを懐かしく思うほど僕はまだ生きていない。
誰かと擦れ違う。
それが自分自身であっても僕は気づかない。
僕はうつむいているから。
ときおり立ち止まって見上げると
そこにはいつも現実というものがあって。
そのあまりの不確かさに眩暈を覚える。
スピーカーから流れる音楽が空気を揺らし
それは僕の心を揺らす。
相変わらず僕の手も指も痺れて
心までもが痺れて
何かを掴み損ねるような気がする。
あらゆる確かなことを。

夕闇がすべてを曖昧にするころ
僕はいつも君と擦れ違う。
あらゆる確かなことを集めても
すべてがぼんやりとその輪郭を失う。
僕は煙草を一本くわえて火をつける。
煙を深く吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
そんな風に僕は生きて
決して絶望したりしない。
ちょっとずつ何かを積み重ねて
僕という人間は出来ていく。
でもそれは記憶なんかじゃない。
もっとずっとずっと確かなこと。

written on 25th, nov, 2010

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