dilemma

「ヤマアラシのジレンマ」

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実を言うと、「ヤマアラシのジレンマ」という言葉を知らなかった。もしかしたら知っていたのかもしれないし、聞いたことぐらいはあったのかもしれないけど、最近の僕の脳内事情から言って、それはまったくもって定かではない。なにしろ、このところの僕の記憶バッファ足るや、一週間も経たないうちに一杯になって溢れてしまう具合である。知らなかったわりには、言葉を聞いてすぐピンと来た。それぐらいわかりやすい例えである。

まあ面倒くさいが一応説明しておくと、ある寒い晩に二匹のヤマアラシが体を寄せて暖を取ろうとした。ところが、体を寄せ過ぎるとお互いの体についている針が刺さって痛い。かといって、離れると寒い。まあ、これがジレンマである。しかし、試行錯誤しているうちに、針が刺さらずに寒さをしのげる距離を見つけることができる。とまあ、他者との関係には適度な距離がある、という意味を含んでいる。

てなことだったと思うが、なにしろ一度ネットで検索をかけてささっと斜め読みしたので間違っていたら申し訳ない。ああ、なるほど、つまり、くっつくことも離れることもままならぬ他者との関係においては、適度な距離を置くことでよい関係を築くことができる、っつうことなのだね、特に男と女、恋愛関係のビミョーなしがらみの中で。という具合に素直に納得したいところなのだが、どうも納得がいかない。そもそも針とはなんぞや? この場合は相手を傷つけてしまうことのメタファーであるのだろうが、当のヤマアラシたちにとってはそうではない。彼らは身を守るために身体中に針というものを身につけて生まれた存在なのだ。それは彼ら自身の意志ではなくて、もしかしたら彼らの遠い祖先にちょびっとそういう意志はあったのかもしれないが、とにかく重要なのは当人たちが意図して身に付けているものではない、ということである。ってことはある種の運命論、宿命論を示唆しているとも受け取れないこともないが、それはそれ、あくまでもヤマアラシという動物を人間に見立てているからそういう発想になるのである。

要するになにが言いたいかっつうと、じゃ、ヤマアラシはどうやって交尾するのか、ってことである。痛かろうがなんであろうが、彼らは交尾しなければ滅びる。痛いからっつって、針のない相手を選ぶことはできない。まあ仮に、選んだとするね。針のないモルモットあたりを選んだとする。しかし、ヤマアラシ本人は痛くないかもしれないが、今度はモルモットの方が痛い。第一、ヤマアラシとモルモットが交尾して首尾よく混血児が生まれる確率はヒジョーに低い(はず)。もし生まれても、それはヤマアラシでもモルモットでもない。ふう。ま、要はこれが「ヤマアラシのジレンマ」じゃないかってことを言いたいわけで。実際のところは彼ら(つまりヤマアラシね)は相手を傷つけないように針を畳んで交尾したりするという、なんてことはない答えがあるんだろう。この辺は動物図鑑あたりを調べればすぐわかるはずだ。つまりさ、彼らは種を繋ぐためにお互いを針で傷つけない工夫をせねばならぬ宿命、あるいは針の引っ込めようも寝かせようもないとして、例えお互い血だらけに傷つけ合うとしても交尾せざるを得ない宿命を背負っていると言える。宿命論的に言えば。

言いたいことわかった?

written on 29th, jul, 2003

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