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「タマあるいはシロ」

猫にも弄ばれる男...

正確にはよく覚えていないのだが、確かいまのところに引っ越してきたばかりのころだったと思う。僕は猫を飼っていたことがある。

真っ白な猫だったのだが、近所のスーパーに行った帰り、うちまでついて来てしまったのである。それでなんか食べ物を与えたついでにその猫が一泊してしまった。次の日は会社に出かけるので猫を外に出したのだが、エサをやったせいか、夜に窓をガリガリするので開けてみるとまたやって来て泊まってしまった。そんなことで猫の方も僕の部屋に泊まる習慣になってしまったらしい。僕の住んでいるアパートの隣は公園になっていて、野良猫がたくさん住んでいる。それでこいつもそのうちの一匹だろうと思っていた。僕は考えるのが面倒なのでこの猫に無難なところで「タマ」という名を付けた。

なんだかすっかり自分は猫を飼っているのだという気になって、気がつくといつのまにやらトイレ用の砂の入った箱やら、水をやる皿やら、のみとりシャンプーと櫛やらの猫飼育セット(?)を揃えていた。前にも書いたが凝り性なのである。

別に猫という動物に特別愛着を持っているわけでもないのだが、子供のころは動物学者になりたいなどと本気で思ったりしていたので、元来動物というものが好きなのだ。前も書いたが実家の向かいが大きな寺で、夜になるとこうもりが飛び交っていたのだが、時折実家の茶の間に一匹飛び込んできたりということがよくあった。羽を広げないと結構愛嬌があるので、子供心に飼いたいなどと思ったりしたものだ。いま考えると、肩にこうもりを一匹携えた子供というのもなんか不気味だが。ゲゲゲの鬼太郎じゃあるまいし。

それはともかく、そうこうしているうちにこの猫が僕の部屋で子供を産んでしまった。6匹ぐらい産んだと思ったが、それはかわいいものである。こいつらがそこそこ赤ん坊から子猫になりはじめたころになると、猫というものはどうやら日向が好きならしく、全員横一列になってサッシのところに並ぶのである。当時はまだ部屋の前が駐車場だったので、通りからちょうど塀の隙間に子猫が一列に並んでいるのが見えてしまう。というわけで当然不動産屋に見つかってしまい、なんとかして下さいと言われてしまった。知り合いを一通り回って、なんとか3匹までは引き取り手が見つかったのだが、残りはニコタマの東急ハンズに一匹500円(自分が払う)で引き取ってもらった。あいつらどうしてるんだろううな...。

子猫がいなくなってからも、タマは相変わらず夜ガリガリしてはやって来ていた。外に出している為にノミを付けたりしているので、強力なノミ取り首輪というものを買ってきて付けてみた。すると、翌日には僕の付けたノミ取り首輪ではなく、ピンクのリボンを付けて帰ってきた。はて?また新たなノミ取り首輪を付けると、今度は同じピンクのリボンに付けかえられて、何やら電話番号まで書いてある。はて?もしかして、お前は飼い猫だったのかい?それとも拉致されてる最中なのかい?

もしかして他所のうちの飼い猫かも知れないと思い始めたものの、相変わらず夜になるとガリガリ。まあ、よくわからんが我が家が気に入っているみたいではある。また子供を産まれてはかなわんと思い、ある日避妊の手術に連れて行った。手術が終わって引き取りに行くと、聞いていた料金よりも高いので不思議に思ったら、また妊娠していたそうである。どうりで隣の公園が野良猫だらけになるわけだ...。

そのタマはいまだに生きているのである。もうとうの昔にうちには寄りつかなくなったのだが、どこにいるかというと、向かいの家の飼い猫になったのである。もしかすると、元々そうだったのかも知れないが。もう10年以上経つのですっかりお婆さんだ。先日たまたま家に帰るときに向かいの家の玄関口で近所のおばさんと家の人が話しているのに出くわした。
「シロも車にひかれると危ないでしょ...」
そうか、お前はシロという名前になったのか。それにしても最近すっかり僕のことは知らんぷりである。

かように猫というのは世渡り上手である。見習いたいものである。

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