雨の夜

9月11日、金曜日。

人生の転機というものは、大概の場合ある日突然、唐突にやってくる。

気難しい、めんどくさい女を好きになってしまった。最後の恋だった。それもどうやら終わったらしい。

彼女から24時間LINEがなく、痺れを切らしたのは僕の方だった。夕食後、なんだかいたたまれなくなった。このまま家にいても抑うつ状態が酷くなるだけのように思われた。気がつくとリュックに荷物を詰めていた。あまりいいアイディアとは思えなかったが、県境の山を越えて彼女のところへ行ってみることしか思いつかなかった。途中から雨が降り出した。真っ暗な山道を走りながら、道中僕はありとあらゆる最悪の事態を想定した。1時間45分ばかりかかって彼女の家に辿り着くと、結果はその最悪のうちのひとつだった。彼女の家には車がなく、明かりもついていなかった。

すぐさま僕は引き返した。後は家に帰るだけだ。雨はだんだん激しくなってきた。気温は20度を下回り、涼しいを通り越して車の中は寒かった。僕は悲しみがやってくるのを待った。だがそれは来なかった。彼女はしばしば、自分は僕にふさわしい人間ではないと口にしていた。つまり、ようやく彼女は自分にふさわしい男に出会ったのだろう。帰り道はやけに長く感じた。気がつくといつか自分が作った曲のメロディを口ずさんでいた。県境の山を越えて山形県に入ると雨は止んだ。23時過ぎに自宅に着いた。もう夜半だが、珈琲を淹れてこの日記を書いている。

結局のところ、何も手に入らない。残ったのはあまり出来のよくない歌詞のついた曲が少々と歌詞のついていない曲が少々。今のところまだ悲しみはやって来ないし胸にぽっかり穴が開いた気もしない。随分と昔、まだ20代のころに同じようなことがあった。あのときは酷く動揺してその後何十年と引き摺ることになったが、あれから30数年が経ち、僕自身も変わってしまったのだろう。なんだか今日の出来事はある種のパラダイムシフトのように思える。

こうして僕の最後の恋は終わった。30本目の煙草に火をつける。どうやらこの町でも雨が降り始めたようだ。

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