恋をあきらめて

6月1日、土曜日。

同窓会当日。土日はさすがに隣の工事はやらないだろうからゆっくり眠れると思っていたら、朝から重機の音で目が覚める。二度寝して起きたのは11時近かった。頭痛が少ししたのは寝すぎか。一夜明けて6月になったので、Tポイントを使ってSteinbergのオーディオインターフェイスを注文。念のために先日エレピだけメモとして打ち込んだ曲を聴いてみたが、正直ピンと来ず。これを練り上げて仕上げようという気には今はならない。かといって、この先一生ギター(あるいはボーカル)をレコーディングしないということはまず考えられないのでとりあえず安く買えるときに買っておく。

2時ごろに先に母のところに面会に行き、それから同窓会の会場である隣町のホテルに。3時半ごろに着いたが駐車場はほぼ一杯、なんか緊張してきたので車の中で煙草を一服してからホテルの中へ。

受付時間は3時45分までなのでぎりぎりだったのだが嫌な予感が。たぶんロビーにいるのは皆同級生なのだろうがぱっと見知らない人ばかりという印象。それにみんなスーツにネクタイをしている。一方の自分はというと、Tシャツにカーゴパンツで無精髭を生やしている。場違い感凄い。一人だけチンピラ感。しょうがないのでソファに座っていると、隣に来たおっさんが誰?というので見ると小中学校で同級のムラカミだった。彼は以前シモキタに住んでいたので30年前には東京で何度か会っていた。ようやく知っている人間がいたというので少しほっとしていると、今度は35年前に秋田で会ったのが最後のマツダがやってきた。そうしているうちに、だんだんと皆の顔や名前にどことなく見覚えがよみがえってきた。

皆でホールに移動してそこで祈祷。これが皆の名前を読み上げたりするので結構時間がかかり、ただでさえ一人だけ場違いな雰囲気全開なので居心地の悪いこと。そこで気づいたのは、同窓会に行く前は見た目では自分が圧倒的に若いはず(少なくとも男子では)と思っていたのだが、全然そんなことはないということだった。僕よりも若そうな連中がたくさんいる。むしろ年齢より明らかに老けていると思える人間は数えるほどしかいなかった。確かに皆それなりに立派になり、事務局長のカシワザキなどは地元の名士然としているがそれでも若い。

祈祷が終わり、次はクラスごとに中庭で写真撮影。その間に45年ぶりに顔を合わせたものの当時の面影を残している連中と話す。こうしてみると、男子は存外皆それほど変わっていない。変わったのはむしろ女子の方だった。誰だか分からない人多数。

写真撮影後、今度はテーブルが用意されているホールに移動。クラスごとに席が決まっている。僕はムラカミとマサトシの隣だった。今日の出席者の名簿を見ていると、そこにはえっちゃんもアサギもキミちゃんの名前もなかった。つまり、この時点で僕の心がざわつく女子はほぼいないことが判明、ただし中学のときに好きだったが一度も話したことのないエミコちゃんの名前はあったが結婚して姓が変わっており、そもそも見渡した時点でどれが彼女がも分からなかった。美人で気になっていたマミちゃんの名前もあったが会場を見渡しても分からず。副事務局長のマキやら担任の先生たちやらが挨拶している間に会場の中を観察すると、ひとりだけ自分がよろめきそうな女子がいた。中学のときは奇妙なおかっぱ頭のせいで目立たなかったコンノさん(旧姓)がひとりだけ飛び抜けて美人になっていて驚いた。もし今日僕がナンパ(笑)するのであれば彼女しかいない。真面目な話、還暦という年齢を考えても下手な女優よりもいい女になっていた。だが妄想もここまで。今日は6時過ぎになったら帰ろうと決めている。先生たちの話が長く、時間は刻々と過ぎ、6時になろうとしていた。校歌を歌う段になり、僕はメロディも歌詞もさっぱり覚えていなかったが、隣のムラカミが3番まで歌詞を完璧に歌っていたので驚いた。

ようやく一段落して談笑の時間になるころにはもう6時を回っていた。隣のテーブルに座っていた元担任の先生に呼ばれて話をする。案の定近況を訊かれるのが辛い。何もしてませんというしかない。本当に自分がただのチンピラでしかないと思い知らされる。マツダは僕がダントツで頭がよかったと言い張るけれど、それはたまたま中学のときの全国模試で僕が300点満点の297点という成績だったからだろう。それでも山形県では2番で、1番ではなかった。

6時15分を回ったので、担任やムラカミやマツダに帰ることを告げる。正直前述のコンノさんの存在もありもやもやはするけれど、たぶんこのまま夜まで残っても何も起こらないだろう。僕らはもう恋などをする年ではないのだ。マツダとムラカミにいつだったか作った名刺を渡す。マツダが名刺をくれたので。そんなことをしていると、中学のときに僕にあこがれていた(と思われる)女子の旧姓オカザキがやってきて、えっ、高山くんもう帰るの?と言ってきた。彼女とは30年前に新宿でムラカミとかと一緒に会ったことがある。彼女はもうそのころから結婚して立川だか八王子だかにいたのだが、その後何度か電話がかかってきた覚えがある。彼女が僕に好意を抱いているのは知っていたが、残念ながら僕は彼女に対してまったくそういう感情を抱いたことはない。

とにかく決めたことを実行するのだ、という思いだけでそれじゃあと行って会場を後にする。2万円も払ったフルコースの料理はまだ前菜しか出ていなかった。オカザキが送っていくといって一人だけついてきた。彼女は「ようやく高山くんの夢を見なくなった」とぽつりと言った。10年前にご主人が亡くなって今は八王子にいるということだった。驚いたことに2階の会場から一階の玄関に降りるまでの短い間、彼女は一生懸命僕を口説いているのである。彼女には勇気があるが僕にはない。しょうがないので玄関で名刺を渡し(いまだになんで渡したのか分からない)、握手をして「またね」と言って別れたが、もちろん僕にはオカザキにも、それからその他の大勢の級友たちのほとんどとも、もう一生会えないであろうことを知っていた。

駐車場の車にエンジンをかけ、それから煙草を一服した。もちろん自分が場違いな感じはしたが、こうやって一人だけ先に帰るのはそれ以上に場違いに思えた。意外なことに名簿を見るとほとんどの人がホテルに泊まることになっていた。日帰りは僕を含めた数人だけだった。僕は何かを封印するように煙草を吸った。人生はいろんな勘違いでできている。僕の青春は今日終わったわけではなくて、とっくの昔に終わっていて、今日はただそれを確認しただけだ。

なんだか物凄い喪失感があった。暮れかかった13号のバイパスを走りながら、窓を開けて「ファック!」と叫んだ。「ファック・オフ! ファック・オフ! アディオス!」もちろんそれは自分自身に向かって叫んでいるわけだが。情けないことにこういうことでもしないと僕はいろんな人にさよならさえ言えないのだった。もう二度と会えない人たち。もしどこかでひょっこりと会うようなことがあれば、それこそが縁があるということだろう。もしどこかでコンノさんに会ったら、そのときは声をかけるだろう。

帰宅してすぐに鹿島の試合が始まったが、しばらく僕は上の空だった。自分は一体何をしているんだろうと思った。たぶん今日は人生でただ一度限りの日だったのだ。僕だけじゃなくていろんな人にとって。さよなら。さらば青春の光。

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